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高松高等裁判所 昭和35年(ラ)22号 決定

抗告人 岩本夘太郎

相手方 津野清吉

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨並に理由は別紙記載のとおりである。

抗告人が須崎簡易裁判所昭和三四年(ロ)第二四五号仮執行宣言付支払命令(債権者を抗告人、債務者を津野秀子、津野シモ及び相手方とし、債務者等は連帯して債権者に対し金一〇万円及びこれに対する昭和三四年八月一日より完済に至るまで年一割八分の割合による金員並に督促手続費用金一、五七〇円を支払うべき旨の支払命令。)を債務名義とし、高知地方裁判所須崎支部に対し、相手方所有の別紙目録記載の不動産に対する強制競売の申立をなしたところ、同裁判所が同庁昭和三五年(ヌ)第四号強制競売事件としてこれを受理し、昭和三五年二月一六日右不動産に対し強制競売開始決定をなしたこと、一方右仮執行宣言付支払命令に対しては債務者である津野秀子、津野シモ及び本件相手方から異議申立をなし須崎簡易裁判所昭和三五年(ハ)第一一号貸金請求事件(原告を抗告人、被告を津野秀子、津野シモ及び相手方とし、原告の請求の趣旨を、被告等は連帯して原告に対し金一〇万円及びこれに対する昭和三四年八月一日より完済に至るまで年一割の割合による金員を支払え、とする。)として審理された結果、昭和三五年二月二九日次の如き判決即ち、「被告津村秀子は原告に対し金一〇万円及びこれに対する昭和三四年八月一日より完済に至るまで年一割の割合による金員を支払え。原告の被告津野清吉、同津野シモに対する請求を棄却する。訴訟費用中、原告と被告津野秀子との間に生じたものは同被告の負担とし、原告と被告津野清吉、同津野シモとの間に生じたものは原告の負担とする。本判決は第一項に限り仮に執行することができる。」との判決が言渡されたこと、そこで相手方は右判決により抗告人の相手方に対する請求が棄却され、相手方が勝訴したことを理由に前記強制競売開始決定に対する異議を申立てた結果昭和三五年三月一五日高知地方裁判所須崎支部は右異議を容れ「右の強制競売開始決定はこれを取消す。本件強制競売の申立はこれを却下する。」旨の決定をなしたものであること、以上の点は一件記録に徴し明らかである。

ところで、抗告人は、右の判決に対しては控訴を申立て従つて右判決は未確定であるから、未確定の判決を基礎としてなされた原取消決定は違法であると主張するが、右主張は次の理由により採用できない。

思うに、支払命令に対し適法な異議申立があつたときは、右異議申立が、支払命令に対し仮執行宣言が付される前になされたるとその後になされたるとを問わず、該事件は督促手続を離れ通常訴訟手続に移行し、以後原告の請求の当否が直接審判の対象となる。(被告の異議の当否が審判の対象となるのではない。)ただ、異議申立が、支払命令に仮執行宣言が付されて後になされたものであるときは、事件が右のように通常訴訟手続に移行して後も支払命令はその効力を失うことなく存続するけれども、右効力は本案判決あるまで存続するに過ぎないのであつて、本案判決の言渡と同時に(その確定をまたず)仮執行宣言付支払命今は失効するものと解すべきである。

されば、本件仮執行宣言付支払命令は昭和三五年二月二九日本案判決が言渡されると同時に失効したわけであるから、(尤も、請求金一〇万円に対する支払命令所定の利率は年一割八分であり、本案訴訟における審判の対象となつた利率は年一割であつてその間に差異があり、したがつて支払命令所定の請求金額全部について本案判決がなされたわけではないが、抗告人は事件が通常訴訟手続に移行後、請求の趣旨として一〇万円に対する利率を年一割に改めていることは冒頭認定のとおりであるから、支払命令所定の利率との差額部分はこれを取下げたものと解すべきである。されば支払命令中の右部分は、右の一部取下と同時に当然失効した筋合である。)これに基く強制執行のもはや許されないことは明らかである。したがつて、強制競売開始決定を取消し、競売申立を却下した原決定は相当である。

以上のとおりであつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 石丸友二郎 安芸修 荻田健治郎)

目録

高岡郡中土佐町久礼字西町六、四二五番ノ一

一、宅地 三七坪五合三勺

同所字同六、四二五番の一地上

家屋番号 同町二六一番

一、店舗 木造瓦葺平家建 一棟

建坪一四坪六勺

一、便所兼物置 木造瓦葺平家建 一棟

建坪 九合六勺

一、居宅 木造瓦葺二階建 一棟

建坪 三坪二合三勺

外二階 三坪二合三勺

抗告の趣旨

原決定は之れを廃棄する

相手方の強制競売開始決定に対する異議申立は之れを棄却する

との御裁判を求める

抗告の理由

原裁判所が相手方の異議申立を理由ありと認めて強制競売開始決定の取消決定をせられたのは須崎簡易裁判所昭和三十五年(ハ)第一一号仮執行宣言附支払命令に対する異議申立事件の須崎簡易裁判所昭和三十五年(ハ)第一一号貸金請求事件につき抗告人(原告)の請求を棄却する旨の判決を基礎としてなされたるも主債務者である津野秀子と相手方とは夫婦であり借用証書中相手方名下の印も相手方の印なることを自認して居り且つ該債務は相手方の借用金の支払と家庭の生活費に充つるが為めに借受けた事情もあり又相手方が岡山地方へ旅行中にも相手方の妻であり主債務者である津野秀子から相手方から手紙及び電話にて帰宅次第本件の債務の始末を付けるからと申して来ている旨を以て猶予の申出をして来ている事実もあるので相手方に於ても事件債務について連帯保証人となることを承諾していたことを認知することが出来得るにつき抗告人は前記判決に対し控訴の申立を為し目下控訴審に於て繋属中であるので未確定なる前記判決を基礎としてなされた当該決定は失当である。

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